データサイエンティストの書評ブログ

データサイエンティスト2年目のクールベがお送りする書評ブログです。ビジネス書、歴史小説、紀行文など様々な本を紹介します。

【感想】新米エンジニアなら知っておきたいエンジニアの成長戦略

エンジニアの皆さん、こんにちは 新米データサイエンティストのクールベです

本日は匠習作著のエンジニアの成長戦略 一生食べていけるキャリアをつくる をご紹介します。 www.amazon.co.jp

私と同じような若手エンジニアやエンジニア就職を考えている人なら、入社後数年も立って仕事の要領もつかみ 技術力を高め活躍したいと思っている方も多いのではないでしょうか。そんな方におすすめの一冊です!

はじめに

私はもともと大学の専門が工学ではなく数学だったので、エンジニアという道を選んで不安だったこともあるのですが 今では、この道を選んで正解だったと強く感じています。

それは、本書の著者も述べている通り、エンジニアは新しいアイディアをひねり出して大きなイノベーションを起こす ことができる素晴らしい職業で一生を通じて成長することができるからです。 エンジニアは私も含め、あなたの夢を叶える大きな可能性を持っています。

しかし、ただ闇雲に技術力を高めるだけではエンジニアとして大成することはできないと著者の匠さんは書かれています。

では、どうすればエンジニアとして大成できるのでしょうか。

人生計画を練ろう

それは、まず計画を練ることです。

ここでは、PDCAの計画・実行・点検評価・改善の中のCである、Check(評価)を行いましょう。 自分がエンジニアとしてどうなりたいのか、よくよく考えてみることです。

〇〇の分野で世界一の製品を作りたい、自分の技術で社会貢献したい、などなど色々な夢があるかもしれません。 それを具体的な実行プラン(具体的に5年後、10年後はどうなっていたいかを考えると良いかもしれません)に落とし込みましょう。

私の場合は、AI技術で世界をよりよくし、そして統計学の知識を広く世の中に伝えたいという夢があります。 なので、技術を磨く一方で、統計学の啓蒙記事を書いたり、講師をボランティアで行ったりしています。

機械設計の技術者ならCAD設計を身に付ける、コミュニケーションスキルを身につけるなどと考えたかもしれません。

以下では、エンジニアが見落としがちなやっておきたいことをいくつかご紹介します。

異分野のエンジニアと積極的に関わる

会社に入ってしばらくすると、視野が狭くなりがちです。そのため異分野のエンジニアと積極的に交流しましょう。 本書では、学会への参加を勧めています。

私も会社の業務として学会には行っているのですが、プライベートで学会に行くという発想はありませんでした。 年間数万円で学会に参加できることを考えれば、これをやらない手はないと思います。

もしかすると、学会参加を通じて大学の先生や他企業のエンジニアと知り合いになり 共同研究や仕事の幅が広がるかもしれません。

特許について学ぼう

学生のときには意識していなかったけれども、会社に入ってから取り組むことが多いのが特許調査や特許取得かもしれません。

論文を読んだり、書くことはできるけど・・・特許はちょっと苦手という若手エンジニア は多いかもしれません。

本書では、知的財産権管理技能士という資格が紹介されており、弁理士よりもハードルが 低く特許について簡単に学べるようです。

エンジニア自身が特許の申請をすることはないと思うので、資格取得まではいらないと思われるかもしれませんが、 特許についての重要な観点をしっておくだけでも、特許の点においては重宝されるのではないでしょうか

コミュニケーション能力

私が会社に入って苦労しているのが、この能力に関することかもしれません。

どんなエンジニアもそうですが、自分の技術を顧客や同僚に明確に表現する能力は必須です。 表現とは、わかりやすく話す能力だけでなく、わかりやすい文章を書くこと、顧客が望んでいることを正確に理解するなどの能力も含まれます。

特に、私の職種では、顧客は文系の方も多く専門外の方に分かりやすく説明する能力が望まれ 分かりやすい図や表の作成能力も必須です。

エンジニアにとって、コミュニケーション能力とは自分の成果を正確にアピールする為に必須の能力なので 必ず伸ばして行かないといけないと思います。

最後に

データサイエンティストになって2年目ですが、最近キャリアや成長についてふと考える機会が多くなりました。

そのような経緯で本書を読んだのですが、エンジニアの道を選んで本当によかったと思うことができました。 日々努力しなければならない職というのは、大変なことですが、長い年月を通して成長できればと思います。

それでは!

【感想】マキャベリの君主論を面白おかしく描いた「よいこの君主論」

こんにちは、新米データサイエンティストのクールベです。

本日は、架神恭介氏と辰巳一世氏による、マキャベリ君主論を使って小学生がクラスの覇王を目指す物語である「よいこの君主論」についてご紹介します。

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君主論」とは

1532年に、ニッコロ・マキャベリによる政治学の著作であり、歴史上の君主とはどうあるものか、君主として権力をどう獲得し、どのような力量が必要かなどが論じられています。

帝王学の一種ともいえるかもしれません。君主とは組織の長とも言い換えられますから、部下や後輩を持つ人にとっては、読んでおいて損はない本だと思います。

よいこの君主論の特徴

かなり灰汁の強い本かもしれません。

小学生たちのグループを群雄割拠の戦国大名のごとく、各種の行事の裏で権謀術数の限りを尽くし、一瞬の隙をつき、他のグループを飲み込んで、クラスを制覇することを目指す話です。

各戦術や策は、「君主論」を用いて解説されていて、かなり笑えて(もしかしたら苦笑かもしれない)、勉強にもなります。

私は、読んだ直後にマキャベリ君主論を速攻で買ってしまいました笑

クールベおすすめの話

マキャベリといえば、傭兵や援軍の話が有名かもしれません。

作中では、ドッチボール大会という小学生ならではのイベントとして描かれます。

ドッチボール大会を勝ち抜き君主としてアピールするために、配下のクラスメートと日々練習を行う主人公”ひろしくん”

そこに、敵の君主(クラスメート)"りょうこちゃん"から強力な助っ人を援軍として貸してあげると提案されるのですが、クラスメートの中ではその助っ人は"りょうこちゃん"の配下であり、主人公"ひろしくん"の下で大活躍しても、それは"りょうこちゃん"の手柄となってしまいます。

そこで、あの手この手を使って、この提案を断ることでなんとか切り抜けます。

援軍とは、常に第3の勢力から遣わされ、また戦力的にも強く結束力もあるため、いつ何時裏切るかわかりません。そのため、援軍の危険性ははるかに大きいと、中世ヨーロッパのマキャベリの世界観では、援軍ではなく自軍の軍備を増強することが一番と警鐘を鳴らしています。

一方で、傭兵は愚策中の愚策だそうです。

中世のイタリアでは、傭兵は全く戦争の役に立たなかったそうです。

確かに、わずかなお金で、自身の国でもないものに忠誠いを誓って本気で戦うかと、自分も戦わないと思います。

しかし、実際、傭兵同士の戦争では、八百長戦争が行われるほど、腐敗しており、できるだけ死人が出ないように、色々と決め事を行って戦争をしていたそうです。

例えば、敵は殺さず捕虜にして返す、夜間の奇襲はしない、冬の間は野営をしない、とだらだらと戦争を続けてイタリア内部でのパワーバランスを調整していたそうです。

でも、イタリア内部の戦争であればそれでよかったかもしれませんが、イタリアは内陸国なので、フランスが攻めてきたときに傭兵の八百長戦争で弱体化していたせいで、あっさりと負けてしまったようです。

この結果から、マキャベリは傭兵は雇わず援軍もよばず、自分独自の軍備をもち、そして、いざ戦争になったときは君主自ら戦争に参加し、国を統治せよと述べています。

まとめ

よいこの君主論をよんで、戦争や君主など色々な印象が変わりました。

漫画や映画、現代でも傭兵は戦闘のプロフェッショナルという印象でしたが、少なくとも中世のイタリアでは真逆など、ぜんぜん異なるということに驚きました。

他にも、

  • 君主たるもの配下に奢ってはいけない、しかし他人の財産の場合は気前よく奢ってやれ
  • 極悪非道には"いい"極悪非道と"悪い"極悪非道がある
  • 新しく統治した土地の治め方(買収した会社の経営のしかた)

など、普段の生活にも応用できそうなことが盛りだくさんでかなり勉強になりました。

原書のマキャベリによる「君主論」が難しかったと感じたかたは最初に読んでみてもいいかもしれません。

それでは、よい読書生活を!

元外資コンサルが教える新卒が知っておくべき読書ポートフォリオの考え方とは

こんにちは、新卒2年目のデータサイエンティストのクールベです。

本日は、元外資コンサルの三谷宏治さんの著書の戦略読書という本について解説します。

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 本記事でのポートフォリオとは

ポートフォリオという言葉は次の3つの分野で使われています。

  • 教育
  • クリエイティブ
  • 金融

本記事では、3つ目の金融業界で使われているポートフォリオをさします。 金融業界でのポートフォリオとは、資産を現金・預金・株式・債券・不動産などの金融資産に振り分けるそれぞれの割合のことをいいます。

現代ポートフォリオ理論によれば、幅広い資産に分散させて投資を行うことで、単一の資産に投資するよりもリスクが小さく、安定した収益が得られるそうです。

これは、直感的にも納得しやすいのではないでしょうか。例えば、銀行株だけを買うだけではなく、通信や商社の株を買うことで、銀行が不景気になっても、損失を抑えることができます。

本書では、このポートフォリオの考え方を読書に応用しています。

幅広く読書を行うことによって、一部の分野の本だけ(例えばビジネス書)を読んで、人的価値の成長を大きく損なうリスクを減らし リターンを安定させることができるかもしれません。

読書ポートフォリオとは

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読書ポートフォリオ

上の図が本書で提案している、読書ポートフォリオです。 本を次の4つの種類に分けて、それぞれ読んでいくことを提案しています。

  • ビジネス基礎
  • ビジネス応用
  • 非ビジネス基礎
  • 非ビジネス新奇

では、それぞれ見て行きましょう!

ビジネス基礎

自身の職種で必要となる知識の基礎となる本です。本書では1年目はこれに全ての時間を費やしてもいいと書いていました。 大学で読むような専門書や長い期間売れ続けているビジネス書など。

著者は新卒でコンサルティング会社に勤めていたので、経済学や会計、マーケティングコンサルティング、マネジメントの本を挙げていました。 他にも、ビジネスフレームワークやOffice製品の使いこなしの本なども当てはまるかもしれませんね。

私の場合で考えると私は、データサイエンティストなので、統計学機械学習、プログラミングの本や基礎論文などが挙げられるとおもいます。

もし、あなたの会社が自身の職種の知識を深めるような環境を提供していないのなら、同期に差をつけるチャンスかもしれません。

ビジネス応用

ビジネス基礎の応用本です。基礎がわかっているので、実際の事例をみて理解できることも増えているはずです。 最近は主要テーマごとに、「全史」ものが出版されているので、基礎の確認と同時に紹介されている書籍(論文)やそこでの応用本を読んでも いいとのことです。

私の場合でいえば、統計学機械学習を活用した事例の本や論文、応用本(株価予測)などがあるかもしれません。

非ビジネス基礎

社会人で本は読んでいると言いつつも上の2つの自身が関わっているものばかり読んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。 離れた分野の学びを欠かしてはいけないと著者は言います。

「関わっているビジネス以外の本」と言っても広大すぎて悩む方もいるかもしれません。そういう方には、 「SF」、「歴史」、「科学」、「プロフェッショナル」をすすめていました。自然やヒトの本質を描く作品は大きく視野を広げる効果があるからです。 他にも、自分が触れたことのない学術分野(言語学、考古学、国際経済学、政策科学、科学哲学、行政学)などにも触れてみてもいいかもしれないと書かれていました。

でも、実際なんの役に立つのかという疑問もあると思います。 著者は、偉いヒトと話すときに話のネタに困らなかった、視野が広がる、周りの人と同じようなアイデアにならないと言われていますが

私は、様々な本を読んでいると、例え話が面白くなるという効用があると思います。

例えば、統計学には、ビジネス用語でもよく使われている「因果関係」という言葉があります。

「因果関係」を説明するときに、もし仏教の入門書でも読んでいれば、 「因果」というのは仏教の祖である「仏陀」が作った言葉ということを知っています。

仏陀」が「輪廻」を逃れるためには、輪廻に到るまでの17の道筋を辿るまでの元を断てばいい ということで生まれたのが「因果」という言葉なんです。

よく「因果関係」と「相関関係」は似て非なるものでよく勘違いされますが、2500年もの大昔に理解していたなんて 「仏陀」はさすがですね、と言ったようなことが言えるわけですね。

面白いかはさておき、、、知識が点の集まりではなく線で結ばれるとき、自分独自の物の見方ができるのではないでしょうか。

非ビジネス新奇

これは、あなたが普段全く読まないような本、例えば本屋で目についた本などです。

恋愛小説や宗教や心理学の本などもいいかもしれません。

最後に

今日は、読書を4つの分野に分けて行う方法について説明しました。

普段同じような本ばかり読んでいるなと感じた人も多いのではないでしょうか。

本書では、キャリアごとにどんな割合で読んでいけばいいのか、著者はどんな本を読んできたのか などが克明に記載してあります。

よかったら、自分の読書ポートフォリオを見直して見てくださいね!

それでは、よい読書生活を!

【感想】世界のエリートが実践している絵画鑑賞法とは

こんにちは、データサイエンティストのクールベです。

早速ですが、次の作品の作者と作品名を伏せた状態で、あなたはアート作品から何を読み取るでしょうか?

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図1

という冒頭から始まる、なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館に行くのかについて、レビューしたいと思います。

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はじめに 

美術と仕事って関係あるの?って思われる方が大半かもしれません。しかし、実は世界のエリートたちは人生や仕事で役立つ能力を伸ばすために美術鑑賞を行っている、と本書は説いています。

そう聞くと、難しいのかと身構えてしまうかもしれませんが、本書で紹介されている美術鑑賞法は専門知識を必ずしも必要としていません。

それにもかかわらずこの美術鑑賞法は米国の「MOMO」と呼ばれるニューヨーク近代美術館で考案されたメソッドである、VTC(Visual Thinking Method)を元にしていて、本格的な方法です。

VTCの概要

VTCが大切にしていることは 「誰によって制作されたのか?」 「いつ制作されたのか?」 「何のために制作されたのか?」 という「作品の背景」を問わずに、作品そのものへの理解だけではなく、作品をみて自分が何を感じ、何を考えるのか、ということです。

たしかに個人の価値観が重要視される現代ではアート作品に対して、作品の背景を十全に知っているよりも、そこから自分は何を感じるのかというようなことが大切かもしれませんね。なぜなら、作品の背景は、ググればわかるからです。

VTSを実践することによって、観察力、批判的思考力、言語能力が養われることが実証されているそうです。

VTCの具体的方法

それでは、VTCはどのような方法で行えばいいのでしょうか。とても、簡単です。 おおまかには次の2つのことを行えばいいそうです。

  1. 絵から分かる事実を列挙する。
  2. 事実を組み合わせて、自分なりの解釈を導く。

とても簡単ですね。具体例として、冒頭の絵を使って考えてみましょう (最近、美術展も行われていたので、見に行かれた方もいるかもしれませんね。自分も見に行きました笑) まずは、1つ目の事実の列挙です。

  • 女性が着ている服には、卵型のような模様が見える
  • 2人がいる場所には花が咲いている
  • 女性のつま先が崖っぷちで踏ん張っているように見える
  • 女性の左手が、男性の右手をしっかりとつかんでいるように見える
  • 全体的に暗い雰囲気だが、星のような明るい点がたくさん見える。

などパッと見ただけでも様々なものが分かるかと思います。 次に、これらを組み合わせて、

  • 女性の服装と植物から、「受粉」や「雄しべと雌しべ」を思わせ、「性行為」のイメージがわく
  • 「性行為」と二人の立ち位置から男性の「種子」を女性ががっちりと受け止めている
  • 暗い雰囲気と星のような明るい点から、不安を抱えながらも光り輝く未来への期待がみえる

と想像してみることが可能です。これはあくまでも1つの例なので、もちろん他にも多くの「鑑賞結果」が得られること思います。 そして、名画こそ、多種多様な解釈の可能性があるのだと、作者は書いています。

最後に

この冒頭の作品は、グスタフ・クリムトも「接吻」という作品でしたがどうだったでしょうか。 私は、この本をよんで、作品名も、作者も、背景知識のないまま、アートを味わうことを体験して かなり楽しむことができました。美術館に行きたくなりますね!

さらにビジネススキルとして考えてみると、絵画を見て単純な事実を列挙して、そこから様々な妄想をしてみること、考え抜いてみること、 それを他者に伝えること、、、などとやってみると色々な能力が鍛えられるかもしれません。

今週末は美術館へ!

【感想】世界で累計2900万部売れている、中国史×SFの金字塔「三体」

こんにちは、駆け出しデータサイエンティストのクールベです。 本日は、中国で爆発的な大ヒットを生み出した「三体」についてご紹介します。

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「三体」はFacebookのCEOであるマック・ザッカーバーグ氏や、元アメリカ大統領バラク・オバマ氏が大絶賛していたことでも知られています。読むしかない。

「三体」は物理学の有名問題である「三体問題」をテーマにしたSFと4000年の歴史を持つ中国との掛け合わせでかなり面白かったです。

「三体問題」とは

そもそも「三体問題」とは、惑星や恒星などの3つの天体がどんな動きをするのかを求める古典的な問題です。 天体の間には万有引力が及ぼし合っており、天体の数が多ければ多いほどその相互作用が複雑になってそれらの動きを明確に把握することが難しくなります。

2つの天体までなら、手計算でも解くことができるのですが、3つ以上の天体の動きを求める問題を「多体問題」といい手計算では解けない、すなわち解析的には解けないということが証明されています。

人間関係で言えば、人数が多ければ多くなるほど、関係が複雑になると言い換えられるかもしれません。

「三体」の魅力

「三体」は3つの恒星がある惑星に住む「三体星人」と「地球人」とのコンタクト物のSFです。

3つの恒星、すなわち太陽が空に浮かぶ情景を想像してみてください。 地表は何千度もの温度となり、「三体星人」は灼熱の炎に身を焦がし、3つの天体による重力で地面は割れてしまうのです。著者の劉慈欣は圧倒的な筆致で描ききります。

本書の中で特に魅力的なのは、本書と同じタイトルである「三体」というVRゲームでしょう。

ゲームの参加者は、三体問題を解き、比較的気候が穏やかで日の上りと暮れが一定な「恒紀元」と日の上りと暮れが頻繁に起こる「乱紀元」を正確に予測することが求められる。もし予測を間違えば、「三体星人」たちは皆死んでしまうからです。これは、2009年に本屋大賞を取った「天地明察」に似ているかもしれません。

その中で、時代考証はめちゃくちゃですが、かの有名なアイザック・ニュートンが三体問題を解く運動方程式をたて、現在のコンピュータを作ったとされるフォン・ノイマン数値計算でその方程式を近似的に解こうとします(なぜなら解析的には解けないので、近似的に解くしかない)

しかし、そのゲームの設定ではコンピュータはありません。さて、どうするかというと、キングダムでおなじみの秦の始皇帝に頼んで、3000万人の兵士を借り受け人力で解くことにします。しかし全員に高度な微分積分を教えている余裕もないので、人間コンピュータを作って解くことにします(めっちゃ面白い!)

どういうことかというと、現代のコンピュータはNAND回路という0と1の信号が送られたときの対応さえ決めてしまえば、あとはそれらの組み合わせでできてしまうのです!

NANDを詳しく説明すると、1と0しか取らない2つの入力信号に対して、2つとも1のときのみ0を出力とし、それ以外の場合は0を出力する論理回路のことです。

現代では電気でそれを実現しているわけですが、本書ではそれを白(0)と黒(1)の旗で実現します。すなわち、2人の人間が両方黒旗を上げたとき、それを伝えられた人間は白旗を上げ、それ以外のときは黒旗をあげるわけです。

この非常に簡単な仕組みを3000万人の人間に覚えさせ、それらの組み合わせでコンピュータの構成要素である、ハードウェア、ソフトウェア、OS、コンパイラなどを実現しているわけです。実は、現代のコンピュータも人間を使ってないだけで、仕組みは同じです。

もちろん、電気と違って人間コンピュータの演算速度は非常に遅く(各要素間の情報のやりとりは騎馬によってなされる)、「三体世界」での時間で1年半をかけて、ようやく予測をおえることができます。

しかし、アイザック・ニュートンのモデルには、重力波の影響が考慮されておらず、その誤差が原因で予測は失敗してしまうのでした(そして、それはもちろん一般相対性理論を作ったアインシュタインが言及します笑)

最後に

溢れる魅力のVRゲーム「三体」を中心に紹介してしまいましたが、これ自体は物語には全く関わってこず、枝葉の部分です。 理系でSFが大好きな人はもちろん、中国史歴史小説が人にもオススメできるものなので、良かったら読んでみてくださいね。