データサイエンティストの書評ブログ

データサイエンティスト2年目のクールベがお送りする書評ブログです。ビジネス書、歴史小説、紀行文など様々な本を紹介します。

【感想】世界で累計2900万部売れている、中国史×SFの金字塔「三体」

こんにちは、駆け出しデータサイエンティストのクールベです。 本日は、中国で爆発的な大ヒットを生み出した「三体」についてご紹介します。

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「三体」はFacebookのCEOであるマック・ザッカーバーグ氏や、元アメリカ大統領バラク・オバマ氏が大絶賛していたことでも知られています。読むしかない。

「三体」は物理学の有名問題である「三体問題」をテーマにしたSFと4000年の歴史を持つ中国との掛け合わせでかなり面白かったです。

「三体問題」とは

そもそも「三体問題」とは、惑星や恒星などの3つの天体がどんな動きをするのかを求める古典的な問題です。 天体の間には万有引力が及ぼし合っており、天体の数が多ければ多いほどその相互作用が複雑になってそれらの動きを明確に把握することが難しくなります。

2つの天体までなら、手計算でも解くことができるのですが、3つ以上の天体の動きを求める問題を「多体問題」といい手計算では解けない、すなわち解析的には解けないということが証明されています。

人間関係で言えば、人数が多ければ多くなるほど、関係が複雑になると言い換えられるかもしれません。

「三体」の魅力

「三体」は3つの恒星がある惑星に住む「三体星人」と「地球人」とのコンタクト物のSFです。

3つの恒星、すなわち太陽が空に浮かぶ情景を想像してみてください。 地表は何千度もの温度となり、「三体星人」は灼熱の炎に身を焦がし、3つの天体による重力で地面は割れてしまうのです。著者の劉慈欣は圧倒的な筆致で描ききります。

本書の中で特に魅力的なのは、本書と同じタイトルである「三体」というVRゲームでしょう。

ゲームの参加者は、三体問題を解き、比較的気候が穏やかで日の上りと暮れが一定な「恒紀元」と日の上りと暮れが頻繁に起こる「乱紀元」を正確に予測することが求められる。もし予測を間違えば、「三体星人」たちは皆死んでしまうからです。これは、2009年に本屋大賞を取った「天地明察」に似ているかもしれません。

その中で、時代考証はめちゃくちゃですが、かの有名なアイザック・ニュートンが三体問題を解く運動方程式をたて、現在のコンピュータを作ったとされるフォン・ノイマン数値計算でその方程式を近似的に解こうとします(なぜなら解析的には解けないので、近似的に解くしかない)

しかし、そのゲームの設定ではコンピュータはありません。さて、どうするかというと、キングダムでおなじみの秦の始皇帝に頼んで、3000万人の兵士を借り受け人力で解くことにします。しかし全員に高度な微分積分を教えている余裕もないので、人間コンピュータを作って解くことにします(めっちゃ面白い!)

どういうことかというと、現代のコンピュータはNAND回路という0と1の信号が送られたときの対応さえ決めてしまえば、あとはそれらの組み合わせでできてしまうのです!

NANDを詳しく説明すると、1と0しか取らない2つの入力信号に対して、2つとも1のときのみ0を出力とし、それ以外の場合は0を出力する論理回路のことです。

現代では電気でそれを実現しているわけですが、本書ではそれを白(0)と黒(1)の旗で実現します。すなわち、2人の人間が両方黒旗を上げたとき、それを伝えられた人間は白旗を上げ、それ以外のときは黒旗をあげるわけです。

この非常に簡単な仕組みを3000万人の人間に覚えさせ、それらの組み合わせでコンピュータの構成要素である、ハードウェア、ソフトウェア、OS、コンパイラなどを実現しているわけです。実は、現代のコンピュータも人間を使ってないだけで、仕組みは同じです。

もちろん、電気と違って人間コンピュータの演算速度は非常に遅く(各要素間の情報のやりとりは騎馬によってなされる)、「三体世界」での時間で1年半をかけて、ようやく予測をおえることができます。

しかし、アイザック・ニュートンのモデルには、重力波の影響が考慮されておらず、その誤差が原因で予測は失敗してしまうのでした(そして、それはもちろん一般相対性理論を作ったアインシュタインが言及します笑)

最後に

溢れる魅力のVRゲーム「三体」を中心に紹介してしまいましたが、これ自体は物語には全く関わってこず、枝葉の部分です。 理系でSFが大好きな人はもちろん、中国史歴史小説が人にもオススメできるものなので、良かったら読んでみてくださいね。